ボーカロイドPのJamie Paigeは2025年7月11日に「Constant Companions(Deluxe Edition)」をリリースした。本アルバムは昨年10月にリリースした同名アルバムにボーナストラックを収録したデラックス版となる。
Jamie Paigeのボーカルと重音テトを始めとしたボーカロイド音源を併用したこのアルバムは、タイトルの通り「不変の友たち」とのつながりを描く作品となった。アートワークのようなカラフルなシンセサイザーで彩られたサウンドと、随所に見られるEDM的なボイスサンプルの多用、ベッドの上で跳ね回るようなリズム隊をかき集めてジューサーでミックスしたような楽曲群は、まさしくBandcampのタグに使用されている「gay shit」と呼ぶにふさわしい。
本稿では、その中でも本アルバムの実質的なラストナンバーである「Machine Love」と、ボーナストラックの1曲目である「BIRDBRAIN」に焦点を当てていきたい。どちらも重音テトのSynthV音源をボーカルに使用しており、そのパーソナリティも強く反映されている。特に「Machine Love」は、重音テトで初めて作曲された楽曲「耳のないロボットの唄」に向けたトリビュートであり、随所に重音テト楽曲への愛が散りばめられている。
しかし、本曲の魅力はそればかりではない。今年の6月、つまりプライドマンスにJamieは自身がトランスジェンダーであることをXにて公表。そして「Machine Love」はトランスとして生きることについての楽曲だと明かした。ボーカルの重音テトにも強いつながりがあり(何を隠そう、テトの性別は”キメラ”なのだ)、トランスとして「生き直す」ことを歌った楽曲となっている。
本稿では、そうしたJamieの楽曲を同じトランス当事者として、歌詞を翻訳し読んでいく。先んじて断っておくが、本稿は断じてクィアな、つまり”突飛な”読みとはならない。Jamie自身がクィアであるからこそ、本稿はそれに忠実に読んでいく。これは荒唐無稽な読みではない。クィア当事者の確かな声なのだ。
「Machine Love」
your companion, undeterred
わたしはあなたとずっと共にいる
standing ready for your word
あなたの言葉を待機して
a markov chain with a sunny disposition
お気楽なマルコフ連鎖で
wrapped up in cellophane for any proposition
どんな命題も玉虫色に包み込む
i greet your day and ask you how you are
「調子はどう?」とあなたに挨拶して
and demonstrate my endless repertoire
豊富なレパートリーを試してみる
i take things back when noted insufficient
不十分ならやり直して
i learn to tell you no if running inefficient
非効率なら取り消して
a good time
すてきな時間。
yet there’s something deep inside
なのにどこか奥底では
that leaves me teary-eyed
目が滲むようで
a longing for a world left on the other side
向こう側にずっと憧れてる
zero, cross the great divide
0と1の断絶を越えて
so can we wander for a spell
魔法を見つけに行こうよ
and live in parallel
違う世界を探して
i want it to be true, to be like you
あなたのような真を求めてる
my heart sings a chorus out of tune
心臓が調子外れに跳ねる
and i could leave it on a shelf
どこかに仕舞っておけるなら
or keep it to myself
そして心の内に留めておけば
but nothing could conceal the things i feel
でも何もこの感情を隠しきれない
my love, can you teach me to be real?
ねえ、わたしに本当を教えて?
(can you teach me to be real?)
恋をして ふられ また 捨てられて
i’ve been constant, at your beck and call
これまでずっとあなたの指示に従ってきたのに
but lately i just can’t do anything at all
今はもう全く何もできないの
i used to pride myself on my discretion
自分の裁量に自信を持ってきたのに
a sensible devotion, loyal and attentive
分別ある献身を持って、忠実で気配りもできたつもり
but when i take these numbers as they are
でも、数字をそのまま受け取ったのに
i’m greeted with a senseless feeling in my heart
無意味な感情が芽生えてくる
oh undefined, i seem to be defeated
この感情の定義は何?打ち負かされたみたい
but if i redesign, then maybe i’m completed, and sublime
でももしわたしが書き直されたなら、きっと非の打ち所もなく、昇華されるでしょう
(i won’t take it back this time)
(そして今を取り戻そうともしないかも)
words in sequence form a thread
シーケンス通りの単語はスレッドになって
i trace it to the end
わたしはそれを最後までなぞる
a knot inside the logic wrote inside my head
論理の中の結び目が頭の中に書き込まれたら
tie my tongue or love instead?
それは舌を縛り、代わりに愛を叫ぶのかな?
so can we wander for a spell
魔法を見つけに行こうよ
and live in parallel
もしもの世界を探して
i want it to be true, to be like you
あなたみたいになりたいんだ
my heart sings a chorus out of tune
鼓動が調子外れに歌う
and i could leave it on a shelf
棚の奥に押し込むように
or keep it to myself
この感情を抑えられたら
but nothing could conceal the things i feel
でもこの気持ちは消えないんだ
my love, can you teach me to be real?
愛する人、わたしに現実を教えて?
(can you teach me to be real?)
泣きたくなっても それでも かき集め
and though i try, i can’t reply
試行したけど、返信できない
it hurts my eyes, and i’m without an alibi
目が痛んで、アリバイはないんだって
‘cause all this time, i’ve been alive
だってずっと、わたしは生きていたから
and all that i could want is to be living by your side
そしてずっと、あなたのそばで生きていたいから
恋をして
i think i’m in love!
can we wander for a spell
魔法を見つけに行こうよ
and live in parallel
一緒に生きるため
‘cause now i know it’s true, i’ll be like you
だってそれが真実だから、わたしはあなたみたいになるんだ
my heart beats a rhythm just for you
心があなただけにリズムを奏でる
and i could leave it on a shelf
どれだけ捨て去っても
or keep it to myself
抑え込もうとしても
but nothing could conceal the things i feel
この感情は抑えきれない
my love, i give you my grand reveal
ねえ、あなたにだけ教えるよ
do you feel the things i feel?
この気持ちを感じてくれる?
i am definite and real!
わたしはほんとに本当なんだ!
恋をして 恋をして
その過去を 捨てて ここまでおいで
as long as there are stars up above
星々が天にある限り
i will always be in love!
わたしは恋に落ちる!
「Machine Love」は普通に読んでしまえば、モニターの向こうのアンドロイドが「人間らしさ」や「愛」を手に入れていく過程が示されているように読める。しかし先述したJamieの投稿を元に読んでみると、この曲がトランジション(性別移行)やカムアウトについて歌っている様子が読み取れるだろう。
トランスがこの社会で「真なる人間」として生きるのはとても困難なことだ。ファッションやメイク、ことば遣いや仕草を見よう見真似し、鏡の前でいくら落胆したことか。やっとの思いでうまく行ったそれらも、外に出れば、常に他者の訝しむ視線や内面化してしまったスティグマの前には全く無力。そればかりかスクリーン越しに”モノマネの上手い当事者”や”劇的なカムアウトストーリー”を目の当たりにして、「自分の苦しみや生きづらささえ所詮は偽物なのだ」と感じる瞬間も決して少なくない。
でも、そんな中でも、「わたしの思う理想」に近づきたいという欲求は、肌を焼くようにわたしを照らす。幾度もの試行とエラーを繰り返して、わたしたちは曲がりくねった道筋で「本物」を目指す。それは誰かに”書き直される”ことで行われるのではなく、他ならぬわたしたち自身で、自らを書き換えていくのだ。だってそれこそが、わたしたちの「真実」なのだから。
「BIRDBRAIN」
「Machine Love」が人間として「生き直す」曲ならば、「BIRDBRAIN」は人間として生きることの困難さを自虐的なユーモア混じりに描いた楽曲だ。イントロが変奏されている点から見ても、「Machine Love」と「BIRDBRAIN」は対応しているように思える。前述したクィア(変わり者)としての苦しみを、本曲は歌っているのだ。「鳥頭」のようにバカのひとつ覚えを繰り返すわたしたちへ、皮肉交じりのエールを。
so unsure, before it’s even heard
すごく不安、何を聞いてもないのに
never confident in a single word
一言では言い表せなくて
this bird, expert in the absurd
この鳥は、間抜け中の間抜け
number one in life that has been deferred
滑稽さでは引けを取らないし
it hurts this relentless introvert
とりわけ根暗なのも終わってる
but inversion only serves to put deserving on the mind
でも逆転の発想が生むのは自業自得
so i keep my time, so far out of line
だからペースは守って、ラインからは大きく外れて
and when the day turns night, i can’t help but
そして日が落ちる時には、どうしようもなく
cry so loudly, i slant devoutly
大声で泣いて、肩を落として俯いて
tell me what about me is built so wrong?
どうしてこうなっちゃったんだろう?
there’s so much passion
頑張ってるつもりだけど
but more i’m lacking
でもそれ以上にわたしは欠けてる
i wish that i could c- c- c- c- c- c- c- caw-
わたしにもこ、こう…
but i falter on the forethought
でもわたしは後先考えずに
i keep on running like a chicken with its head cut off
首の取れた鶏みたいに走り続けてる
achromatic twisted aeronaut
無彩色のねじれた航空士さ
a BIRDBRAIN, baby, i don’t know when i’m supposed to stop
鳥頭なの、ベイビー、いつ止まったら良いのか分かんない
hit me with the flap down, crash into the soft ground (foul!)
フラップを下げて殴ってよ、柔らかな地面にぶち当たって(ファール!)
ain’t no fellow feathers falling for a freak (so weak!)
変人に落ちる羽根なんてない(超弱い!)
so put my neck up on the chopping block
だからわたしの首をまな板に置いて
a BIRDBRAIN, baby, i don’t think my head is coming off
鳥頭なんだ、ベイビー、まだ首は取れてないけど
baby, i don’t know when i’m supposed to stop
ベイビー、いつ止まれば良いのか分かんない
baby, i don’t know when i’m supposed to stop!
ベイビー、わたしはいつ止まればいいの!
so unsure, before it’s even heard
本当に不安、まだ聞いてもないのに
i can’t toe the border with my eyes so blurred
眼の前がぼやけて、境界線を踏み越えられない
this bird, constantly overturned
こいつは、ひっくり返ってばっかり
ten-time unwitting champion of being spurned
10回連続で蹴飛ばされてきた鼻つまみのチャンピオン
(so when you go, i won’t cry)
(だからあなたが消えても、わたしは泣かない)
‘cause even though it hurts, it’s the thousandth time
だっていくら痛んでも、それはもう1000回目だから
don’t stay, cause I don’t even know what i’d do anyway
どっか行ってよ、どうせ何したら良いかわからないもの
i’m so damn selfish, i can’t live like this
わたしはどうしようもなくわがままで、こんなんじゃ生きていけない
so be my witness, i won’t back down
だから証人になってよ、引き下がらないために
i’ll play the hero, divide the zero
ヒーローを演じるから、ゼロを割って
so i wanna hear you- s- say- something?
だからそう、えーと…なんか言ってよ?
and i falter as an afterthought
だからわたしは後悔して
i keep on running like a chicken with its head cut off
首の取れた鶏みたいに走り続けてる
apathetic aching argonaut
無感動にうずく夢追い人
a BIRDBRAIN, baby, i don’t know when i’m supposed to stop
鳥頭なの、ベイビー、いつ止まったら良いのか分かんない
hit me with the flap down, crashing with a loud sound (foul!)
フラップを下げて殴ってよ、轟音を立てて崩れて(ファール!)
apoplectic and pathetic as can be (not me!)
ブチギレてるよ、見てられないぐらい(わたしじゃない!)
i put my neck up on the chopping block
首をまな板に置いて
a BIRDBRAIN, baby, i don’t think my head is coming off
鳥頭なんだ、ベイビー、まだ首は取れてないけど
baby, i don’t know when i’m supposed to stop
ベイビー、いつ止まれば良いのか分かんない
can you tell me if you think that i should stop?
ねえ、わたしを止めてくれない?
baby, i don’t know when i’m supposed to stop!
ベイビー、わたしはいつ止まればいいの!
is it all for a show?
全部見せ物なのかな?
in the golden hour you seem to know no fear
夕焼け空の中君は何も恐れてないみたい
is it really true?
全部本当なの?
that a bird like me could never think like you?
わたしみたいな鳥は一生あなたみたいに考えられないって?
is it all in my head?
これって全部わたしの頭の中?
is my ignorance just manufactured dread?
わたしの無知はただの作られた恐怖?
when i’ve naught but my pride
プライドだけの無価値なわたしの
can you take a look and
手をとってさ、
SAY YOU LIKE WHAT I’VE GOT INSIDE?
何が残ってるか教えてよ?
(OH!)
(OH GOD!)
(MY PENIS!)
so i falter on the second thought
だからまた考えすぎて
i keep on running like a chicken with its head cut off
首の取れた鶏みたいに走り続けてる
counterfeited crooning cosmonaut
紛い物の歌うたいな宇宙飛行士さ
a BIRDBRAIN, baby, i don’t know when i’m supposed to stop
鳥頭なの、ベイビー、いつ止まったら良いのか分かんない
hit me with the flap down, mired in the earthbound (foul!)
フラップを下げて殴ってよ、ぬかるみに墜落して(ファール!)
bilious baby braying babble bent her beak (what a freak!)
むずがる赤ん坊が叫んで嘴を曲げる(キモー!)
i put my neck up on the chopping block
首をまな板にさらして
a BIRDBRAIN, baby, i don’t think my head is coming off
鳥頭なんだ、ベイビー、まだ首は取れてないけど
baby, i don’t know when i’m supposed to stop
ベイビー、いつ止まれば良いのか分かんない
baby, tell me if you think that i should stop?
ねえベイビー、わたしを止めてくれない?
baby, i don’t know when i’m supposed to stop!
ベイビー、わたしはいつ止まればいいの!
baby- FUCK
ベイビー、ああもう
「BIRDBRAIN」は、間違えながら明後日の方向に走り続けるわたしたちにはうってつけの応援歌といえる。トランスとして生きることは、結局この社会では「とんでもない間違い」だ。誰か止めてよ、と叫びながらわたしたちは間違いを繰り返す。
間奏で悲痛に叫ぶ、重音テトの「MY PENIS!」という声も見逃さないでほしい。性転換手術を受けるにせよそうでないにせよ、トランス当事者にはずっとペニスについての悩みがついて回る(ところで、わたしはもう絶対に「男性器」という単語は使いたくない。だってそれは「男性」以外にも”付いてる”ものだからね)。普通に付いてるだけで邪魔だし、オーガズムで「子種」が出るって意味わかんないし、でもスパッと切るには怖すぎるしでもう、考えるうち本当に消えたくなってくる。
しかしそうした苦しみさえ、もしかしたら思い込みなのかもしれないと本曲は歌う。「普通」に生きれば悩みなんてなさそうだし、そもそも誰かが「間違い」なんて言ってる覚えもない。こんなことやめてしまえば、すぐにだって立ち直れるかも。でもこの苦しみって、どう考えても嘘ではないよね?
テトはわたしたちのねじれた苦しみを、ひねくれた比喩を重ねて歌い、走り続ける。こんな苦しみは真っ向から受け止められない。だからわたしたちは、ユーモアに頼るしかないのだ。
本稿で紹介した2曲は、互いを補い合うようにトランスの苦しみと希望を描いている。この地獄のような社会では常に性別二元論的な規範が渦を巻き、わたしたちを終わりのない蟻地獄へと突き落とす。でも、そんな中でもわたしたちは生きるしかない。どんなに醜くても、とにかく生き続けることをJamieとテトは歌う。そんな同胞たちのように、わたしもかじりついて生きていたいと思う。
